『君の名は』 で、東京の美を再発見

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遅ればせながら、家族で 「気の名は」 を観にゆきました。

映画を観終わって。。。 やはり大ヒットしただけあって、誰もが楽しめる、すばらしい作品だと思いました。

私はストーリーもさることながら、私はこの作品に出てくる、東京の街を切り取った各シーンの美しさに感銘を受けました。

六本木ヒルズのような非日常空間のシーンは別にして、この作品には東京に住む人が日常目にするシーンがたくさん出てきます。そのどれもが光り輝いているんですよね。

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電車のプラットフォーム、

Kiminonawa 2
どこにでもある街中の坂。

「えっ、自分がふだん目にしている世界って、こんなに美しいものだったんだ!」 という気づきを、「君の名は」 は私に伝えてくれました。

何気なく過ごしている日々の生活ですけれども、もっと目を見開いて、「そこに埋もれている美」 を見出してゆきたいという思いを新たにした次第です。

Kiminonawa 3
さて、気になったのは、作品に登場するクレーターのシーン。

このシーンを見て、私は昔行ったイースター島を思い出しました。後で妻に聞いたら、妻も同様に感じたそうです。

イースター島
イースター島といえば、ご存知、モアイ像ですよね。

イースター島の噴火口
モアイのイメージに埋もれてあまり知られていませんが、この小さな島には、写真のようなクレーターがあるのです。

小さな山を登りきると、突然、眼下にクレーターの全貌が見えてきます。これがなんとも言えず、美しい。「モアイを作った人々も、この風景を眺めていたんだろうなあ」 と思うと感無量です。妻といっしょに呆然と眺めていたことを覚えています。

映画のシーンと似ていませんか? 

映画は雲上の世界にクレーターがあり、イースター島のクレーターの周りは海という違いがあります。けれどもイメージはピッタリなんですよね。

「君の名は」 のファンの方には、ぜひ一度、あの絶景を見ていただきたいですね。

坪庭を眺めながら読書を楽しめる家

坪庭のある家に住んでみたい
Pen : LAMY - 2000 (M)
Ink : Sailor – Okuyama

寺社の重厚な建物に深く囲まれ、また 「うなぎの寝床」、と呼ばれる町家の中にあって、通気と採光の優れた機能性と合理性を発揮しながら、同時に生活に限りない潤いをもたらしてくれる坪庭は、京に住む人々の知恵と美意識によって完成された一つの素晴らしい庭園様式であろう。

水野克比古 : 京の坪庭
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我が家は現在、東京のマンションで暮らしています。長い間こだわり続けて、ようやく探した当てたマンションなので、今のマンションライフは気に入っているものの、「あなたはここに永住するのですか」 と聞かれると悩んでしまうところ。

そんなわけで、地方移住を夢見て 「そうだ、京都に住もう。」 なんて本を手にとってしまい、永江 朗さんがリフォームされた和の空間にシビれた話を 「家づくりの前に椅子を学べ」 でお伝えしました。

「そうだ、京都に住もう。」 を読んで気づいたことがあります。

それは、私が求めているのは京都という “町” ではなくて、京都を感じさせる “空間” なのだ、ということです。

“空間” でよいのならば、なにも京都に住む必要はありません。

私の両親は現在、都内の戸建に住んでいますが、いずれは私が継ぐことになります。

将来はこの古くなった家を取り壊し、賃貸住宅を作るつもりでいました。しかし、「そうだ、京都に住もう。」 を読んでみて、自分の望む家を作るのも面白そうだと思うようになりました。

なにより、「建築家に依頼して、オーダーメイドの家を作る」 というのは、人生において最高の道楽だと思うんですよね。車や時計や宝石でも何千万円 (あるいは億とか) するものがありますから一概にはいえませんが、一般的には家作りに勝る遊びはありますまい。人生50年、ここまでがんばってきたのだから (妻によると全然がんばっていないそうですが)、自分へのご褒美をやってみようか、という思いです。

そんなわけで10月の途中から家作りの情報を集めることに没頭しておりまして、ブログを書く暇が全然ありませんでした。

さて、「自分の望む家を作ってみよう」 と思うところからスタートしたのはよいものの、よくよく考えてみると自分の望む家の具体的なイメージって無かったんですよね。

理想の家
私の場合、家を建てる土地は決まっているので、問題は建物をどうするかです。想像してみましたが、なかなかピッタリ来るものがありません。

そこで、イメージを膨らませるために、ひたすら 「渡辺篤史の建もの探訪」 の録画を見ることにしました。そうすると、「ああ、こんな家に住んでみたいなあ」 と思う家が出てきます。こんどはその家を設計した建築家のHPを見てみて、作風を研究してみる。そんなことを繰り返すうちに、だんだんイメージが固まってきました。

そのイメージを一言で表すなら 「凜とした家」 になります (笑)

しかし、「ひとつ “凜とした家” をお願いします!」 と建築家に伝えても、言われた建築家も困ってしまうでしょうから、もう少し具体的な言葉にする必要があります。

2016年に放映された 「建もの探訪」 では次のような言葉で各家を表しています。

― 庭へ続く土間ダイニングの家
― 中庭を巡る“の”の字型の家
― 居住空間を広げる 庭まで包む壁
― 枠で懐かし! 黒塀と路地庭の家
― 中心は吹き抜け 方形屋根の家

同様のイメージで、自分のオーダーメイドの家を表すとすればどうなるか。

― 坪庭を眺めながら読書を楽しめる家

これに落ち着きました。

親の家は住宅密集地帯の狭小地。窓を開けると隣のお宅と目線が合うので、お互いにカーテンを下したままです。そんな場所ですから、当然、庭もありません。

都心ではそうした住環境があたりまえかと思っていましたが、「建もの探訪」 を見て、工夫しだいでは坪庭をつくることにより、小さいながらも自然を身近に感じつつ、外部の視線を遮って暮らす環境をつくることが可能であることを知りました。その鍵となるのは坪庭です。

よく考えてみれば、「住宅密集地帯の狭小地」 という住環境は、京都においては何世紀にもわたって続いてきたわけですから、そこから生まれた 「坪庭のある町家」 という建築様式にこそ、都心部の狭小地において豊かな住環境を作り出すヒントが潜んでいるはずなのです。

京の坪庭
そこで、「京の坪庭」 という写真集を見て、自分の好きな坪庭を探してみました。

龍源院 坪庭
上の写真は龍源院。個人的にはこういう無駄を削ぎ落した石庭って憧れるんですけれど、石庭はやはり禅寺向きかなあと。家であるならばもう少し温かみのある庭の方が良さそうです。

いろいろ迷った挙句、今のところは次の庭をお手本にしたいと考えています。

鳥居家 坪庭
― 鳥居家の坪庭

久保家 坪庭
― 久保家の坪庭

実際にはこんな純和風にはできませんから、もっと洋風のあつらえになると思いますが、坪庭を囲む縁側は絶対に譲れないポイント。縁側に座って、あるいは寝転んで、そよ風に吹かれながら読書を楽しむ。これを極楽と呼ばずして、何と呼びましょう。

庶民の私にとっては、孫 正義さんや柳井 正さんの豪邸よりも、そんな坪庭のある小さな家の方に魅力を感じてしまいます。

魯山人の愛した海苔の茶漬け

魯山人の愛した海苔茶漬け
Pen : MONTBLANC - 146 (EF)
Ink : Pelikan – Royal Blue

これから私が話そうとするのは、もっと手軽なのりの茶漬けである。
それは、いいのりをうまく焼いたものか、焼きのりのうんと上等のを、熱いご飯の上に揉みかけ、その上に醤油をたらし、適当にわさびを入れて、茶を注げばよろしい。

北大路 魯山人 : 魯山人味道
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海原雄山
グルメまんが 「美味しんぼ」 における、もう一人の主人公といえば海原雄山。

魯山人
前稿で 「まるで美食の限りを尽くした大家が、最後に行き着いた究極の美食は お茶漬けだった、というようなかんじです」 と書いたとき、海原雄山のモデルと称される、北大路 魯山人のことを思い出しました。

魯山人が残した功績、それは 「美しい器を用いることで、料理はその輝きを増す」 ということを見出した点にあると言われています。魯山人の没後も、日本の料理界は魯山人の思想を礎として発展を続けており、今日では和洋中を問わず、数多くのレストランが器で楽しませてくれるようになりました。

「器へのこだわり」 は長い間、日本の特徴だったわけですが、近年、この流れは世界へ広がりを見せています。世界最先端のレストランにおいては、シェフが器に細心の注意を払うケースがよく見られるようになりました。

mirazur 01

mirazur 1

* 写真は ”The World's 50 Best restaurants 2016” で、第六位に選ばれたフランスのMirazurの料理です。

そう考えますと、魯山人は料理界に大いなる変革をもたらした存在と言えるわけでして、日本は世界に向けて、魯山人の業績を積極的にPRしてゆく必要があると私は感じています。

話はかわりますが、「魯山人味道」 という、魯山人が記した、美食に関するエッセイを集めた興味深い本があります。
魯山人味道

この本にはお茶漬けだけで、それぞれ個別のエッセイとして、次の十章がおさめられています。

― お茶漬けの味
― 納豆の茶漬け
― 海苔の茶漬け
― 塩昆布の茶漬け
― 塩鮭・塩鱒の茶漬け
― 鮪の茶漬け
― てんぷらの茶漬け
― 鱧・穴子・鰻の茶漬け
― 車蝦の茶漬け
― 京都のごりの茶漬け

これを見ただけで、魯山人がどれほどお茶漬けを愛していたかがわかりますね。

海苔茶漬け
いろいろと並ぶお茶漬けのなかで、最もシンプルなのは 「海苔のお茶漬け」 でしょう。

なんのことはない、ただの海苔茶漬けであっても、このエッセイを読むと食通としてならした魯山人ならではのこだわりが随所に感じられます。

まず、
― 海苔の分量は、一椀に一枚か一枚半を使うこと。
― 茶は上等の煎茶をよしとするが、鰹節と昆布の出汁をかけてもよい
としています。

そして、肝心のポイントは 「海苔の焼き方」 にあると説きます。海苔の焼き方は、「その人の料理に対する教養がものをいう」 とまで魯山人は言うのですから、魯山人に料理を供した方は、気の休まる時が無かったことでしょう。

私はうかつにも知りませんでしたが、海苔は両面を焼いてはいけないそうです。両面焼くと、海苔の香りが失せてしまうからだそうです。

海苔を焼くのに電気コンロが一番よいとのこと。

電気コンロ
魯山人のいう“電気コンロ”は、おそらく上のようなモノだと思います。この電気コンロの使い方ひとつでも、魯山人ならではのこだわりがありました。

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これもスイッチを入れて、すぐにのりをかざすのはいけない。コンロの熱量が含んでいる湿度がなくなるまで待ってから、焼く心得があってほしい。
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こうしてできた海苔茶漬けは、「こんな茶漬けをよろこぶ者は、通人中の通人に属するだろう」 とのこと。天下の食通、魯山人にそういわれてしまうと、海苔茶漬けを食べて、「やっぱり海苔茶漬が最高だなあ」 という言葉が思わず漏れてしまうような自分になりたくなってしまいます。

「海苔茶漬け」 のエッセイの最後は次の言葉でしめくくられています。

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すべての料理のうまい秘訣は、こんなちょっとした注意にある。なるほどそうだろうと分ってみても、聞くだけではだめだ。直ちに、よし来た - とばかり実行する人であってほしい。
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この言葉が書かれたのは昭和七年。

今から84年前に魯山人の残したこの言葉には、料理にかぎらず、全ての仕事において通じる真実が潜んでいるといえそうです。

日本一の建築通にとっての理想の住宅とは

渡辺篤史の理想とする家
Pen : Lamy - 2000 (M)
Ink : Sailor - Okuyama

住宅建築の分野で、日本一の目利きは誰でしょうか?

渡辺篤史
私は 「建もの探訪」 の渡辺篤史さんだと思います。

この番組は、都市や郊外に建つ住宅を中心に、毎週、渡辺さんが家庭を訪問し、建築鑑賞の観点からレポートするという構成になっています。

それほど視聴率が高い番組とは思えないのですが (失礼!)、なんと放送開始後27年という長寿番組。これまで渡辺さんが訪問されたお宅はもうじき1,400軒を越えようとしています。

渡辺さんがすごいのは、各家庭のリビングやキッチンなどの “陽” の部分はもちろん、寝室、クローゼットやバス・トイレといった “陰” の部分まで全て見てこられたこと。こんな経験を積まれた方は、日本はおろか、世界でも渡辺さんしかいないのではないでしょうか。

渡辺篤史の建もの探訪BOOK

放送20周年を記念して作られた、『渡辺篤史の建もの探訪BOOK』 には、そんな渡辺さんが考える、自らの住宅観について述べておられる箇所があります。

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インタビュアー: 渡辺さんにとって、住宅で一番大切なことは何ですか?

渡辺: 「物語が宿る場所」 ということかな。親が子供のために、いろいろなお話をいっぱいつくって聞かせてあげられるような家。人間的な感覚や感性を元気にしてくれる空間。
そのためには生活の機能を満たすだけでは不十分で、余白や無駄が必要なんだと思う。名人といわれる建築家の住宅にはそれがありますね。

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番組でとりあげられる住宅は個性あふれるものが多いので、渡辺さんの好みには合わないケースも当然あるでしょう。それでもブレることなく、渡辺さんはその住宅の魅力を伝えられますが、やはり、渡辺さんが本心から 「これはすばらしい作品だ!」 と感じておられるときは、表情で分かります。

渡辺篤史の建もの探訪 2
2015年5月30日に放映された第1324回、「別荘気分! 川沿いテラスと絵画窓の家 - 東京都稲城市・内田邸」 はそんなケースでした。建築家、内田雄介さんの自邸を評して、番組の最後に、渡辺さんは次のコメントを残されています。

渡辺篤史の建もの探訪 1
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「内田さんのお宅、いかがでしたか。とても気持ちがいいんです。空間構成が実に見事ですよね。どんな仕事の世界でもいろいろな人に影響をうけます。設計家、諸外国の著名な方、そしてまた国内では吉村順三さん、中村好文さん。その他にも数多く、いろいろな人から影響を受けるんですよね。でも、内田さんの設計は、どうでしょう、非常に個性的といいますかねえ。そのいろいろなものを咀嚼して、じつにいい表現をなさっているというかんじが致しました。まわりの緑豊かな環境を貪欲にいただくと同時に、この外観ですね、外から見て自然を壊さない、そういう想いが感じられますよね。成功しましたね!」
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この内田邸のように、渡辺さんが高く評価する住宅を思い起こしてみると、「物語が宿る場所」 というキーワードに重なることがよくわかります。私流に別な言葉に置き換えるならば、「子供の視点からみて、好奇心を刺激され、動き回りたくなる家」 ということだと思います。

では、そんな日本一の住宅の目利きである渡辺さんが、自ら作ってみたい家って、どんなものなのでしょうか。

「渡辺篤史の建もの探訪BOOK」 には次の言葉が記されています。

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・ いろいろ夢はあるんだけど、ひとつはアパートを建ててそこの大家になることだねえ。 (中略)僕がアパートの大家さんというか“よろず相談所”になって、いろいろな世代や家 族がひとつ屋根の下に寄り添えればなあと。住民一人ひとりの知恵や能力を結集して共に暮らしてゆく、そんな暮らし方に惹かれます。
それから商店街の路地裏にある、小津安二郎の映画に出てくるような家で、ご近所さんと楽しく暮らすというのも憧れですね。

・ 僕は賑やかな商店街から一歩路地を入ったような場所にある家がいいなあ。周りにはちょっとした緑があって、それが実のなる木でね。建物は雨露がしのげて、ほっとできる空間があれば十分。最近年のせいか、人恋しくて (笑)。

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なんだか、拍子抜けするくらいシンプルですね。まるで美食の限りを尽くした大家が、最後に行き着いた究極の美食は お茶漬けだった、というようなかんじです。

何事も、道を極めると最後は振り出しに戻るのかもしれません。

私は現在、マンションに住んでいますが、いずれは親が住んでいる一戸建てを建て直そうと考えています。アパートの大家になれるほどの敷地があるわけではないし、商店街の路地裏にあるわけでもないのですが、小さな庭でも設けて、ご近所の方と軽くお茶でも楽しめるスペースを持ちたいな、なんて思うようになりました。

最後に、渡辺篤史さんが、実際に住んでいる住宅はどのようなものなのでしょう?

間取りは4LDKで、奥様と二人の娘さんと、4人で暮らしているとのこと。

渡辺さんは2009年4月28日に、『徹子の部屋』 に出演されており、その際、自邸に関し、次のようなコメントをされたようです。

渡辺篤史 黒柳徹子
「 自宅は大失敗。コンクリート打ちっ放しなんですが、夏暑くて、冬寒い。半地下にオーディオルームも作ったんです。でも、音が響き過ぎて、気持ち悪くなっちゃって。いまだに補修してます。(建もの探訪) 20年の経験は生きなかったですね 」

はたして、渡辺さんが理想の住まいを手にする日は来るのでしょうか。。。

家づくりの前に椅子を学べ

Live in Kyoto
Pen : Pilot - CUSTOM 743 (M)
Ink : Pilot - KONPEKI

普通は逆かもしれない。まず内装を決めてから、それに合う椅子を探すのかもしれない。でも私は初めに椅子があるほうが正しいと思う。食事のときはずっと椅子に座っているわけだし、仕事をしているときも椅子の上だ。歩くときに服よりも靴が大事なように、家具のなかで椅子がいちばん大事だ。

永江 朗 : そうだ、京都に住もう
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これまで、「現役引退後、どこに住むか」「琵琶湖でのセミリタイア生活」 といった稿でお伝えしてきましたが、現役引退後の生活を、あいも変わらず妄想して楽しんでおります。

移住地として京都はその有力候補。そんなわけで永江 朗さんの 「そうだ、京都に住もう」 という本をだいぶ前に買っておりました。
京都に住む

しかし、その後、不動産バブルが起きて京都の不動産価格が高騰。「京都に家は買えないなあ」 と思うようになり、この本の存在も忘れておりました。

先日、本棚を漁っていて、ひょっこり見つけたこの本を手に取る気になったのは、「不動産バブルも一段落か」 という報道が頭の片隅にあったせいかもしれません。

Akira Nagae
著者の永江さんは、早稲田大学の教授も勤められた東京在住のフリーライター。

京都に住む2

ガエまちや2

本の巻頭には、リノベーション完成後の永江邸の写真が掲載されており、これがシビれるほどカッコいいんです!

写真に惹かれて本文を読み進めました。永江さんがセカンドハウスとして京都の古い町家を購入し、そこをリノベーションしてゆくプロセスの詳細が記されています。

最初のうち、私は本書をフムフムと気軽に読んでいて、「なるほど、こうやれば永江さんと同じことを自分でもできそうだな」 と安易に思っていました。

家作りとは、施主が好みの建築家を探し、建築家に予算を含めた要望を伝え、建築家と相談しながら自分の家を作ってゆくこと。

それだけのことですが、本書を読み進めるうちに、ステキな家、ステキな空間を作るのは、容易でないことがわかってきました。

家とは、施主と建築家の共同作品であるものの、よく考えてみれば、家の完成時が 「作品の完成」 ではないんですね。つまり、家の完成時は、「箱」 ができたにすぎないわけですから、家という芸術作品の真価が問われるのはむしろ、家の完成後に施主が家をどう使いこなすかにかかっているのです。

したがって、いくら建築家の腕が良くても、施主側に高い美意識、センスが無いと、良い作品には仕上がらないということがわかります。

永江さんの京都の家 (「 ガエまちや」 と命名されています) が光り輝いて見えるのは、リノベーションの設計を担った建築家の河合敏明氏の力はもちろんですが、永江さんご夫婦のセンスの賜物ということに他なりません。

ということは、永江さんのように、ステキな家を作ろうと思ったら、建築家を探す前に、まずは自分のセンスを磨かないとダメということなります。そのことに気づいてから、本書を読む姿勢が変わりました。

永江さんのキラリとしたセンスを感じたのは、壁紙に対するこだわりでした。永江さんは本書で次のように述べておられます。

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「1階のリビングには、ウィリアム・モリスの壁紙を使いたいと思っていた。全面をモリスというのはやりすぎかもしれないが、一部分にだけ使うのならいいんじゃないか。ウィリアム・モリスのある部屋から坪庭をぼんやり眺めていたいと思った」
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京都に住む3
最終的には、1階のリビングではなく、屋根裏にウィリアム・モリスの壁紙が貼られることになります。そうしてできあがった様子が上の写真です。

ウイリアム モリス アネモネ
貼られたのはウィリアム・モリスの「アネモネ」という作品。

ウイリアム モリス
ウィリアム・モリスはイギリス人。19世紀後半、生活の中に芸術を取り入れようという思想を唱え、実践し、数々の作品を残すとともに、現代における 「デザイン」 という思想の源流を作り上げた人です。

イギリス風のレトロなデザインの壁紙を、和を意識した空間に組み入れようとする永江さんのセンスには脱帽です。

永江さんが 「ウィリアム・モリスの作品を貼りたい」 と思うに至る過程を考えてみますと、ウィリアム・モリスのデザインそのものの美しさもさることながら、現代のデザインの礎に流れる、その歴史や物語を肌で感じたいという狙いもあったはずです。すなわち、他の誰でもないウィリアム・モリスの作品でなければならないこだわり、必然性があったということになります。永江さんほどの教養を持っていると、人生は深みを増すのでしょうねえ。憧れちゃうなあ。

また、本稿の冒頭に挙げたように、永江さんは椅子に対する強いこだわりを持っておられます。「椅子を決めた後に内装を決める」 なんて発想、凡人には思いもよりません。

Hans Wegner mini bear
そうして永江さんがこの家に選んだ椅子は、ハンス・ウェグナーの 「ミニベア」 でした。

hans wegner
ハンス・ウェグナーはデンマークの家具デザイナーでして、とくに椅子は名品として称えられています。

どうして永江さんはそんなに椅子にこだわるのでしょう?  不思議なことに、美意識の高い人が 「住」 の分野において最終的に行き着くのは椅子なんですよね。

Atsushi Watanabe
例えば、私の好きな 「建もの探訪」 という番組でナビゲーターを務められる俳優の渡辺篤史さんは (上の写真)、番組の中で椅子をみつけると、必ずといってよいほど、椅子に座り、座り心地をたしかめるとともに、そこから眺める風景についてコメントされます。そしてまた、驚くことに、椅子を見ただけでデザイナーと作品名をたちどころに当てるのです。「椅子マニア選手権」 があれば、上位入賞は確実かも(笑)。

Yoshifumi Nakamura 100
渡辺篤史の建てもの探訪 BOOK」 という本には、建築家の中村好文さん(上の写真)との対談が収められています。その中で、中村さんが大学を卒業後、家具づくりを勉強された経緯について、中村さんの次のコメントがありました。

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「家具、とりわけ椅子は、身体に一番近い。手触りを直接感じるものだし、文字通り身体を支えるもの。ですから身体感覚をトレーニングするためには(建築家にとって)とても勉強になると思いますね。建築って、身体感覚から発想していくものか、反対に頭で概念的に考えるものか、どちらかになりますが、家具は身体感覚から入って発想していくほうが多いでしょ。そこが面白いんですよ」
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どうやら椅子にこそ、建築の神髄が潜んでいると言えそうです。

しかし、私自身は 「椅子なんて座れればいいや」 と思ってしまうわけでして、椅子に大金を費やす覚悟はできていません。まだまだ修行が足らんです。

「椅子って面白いなあ」 と、その世界に開眼するときが、建築家に依頼して自分の家を作るタイミングなのかもしれません。
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