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阿川さんの対談を芸術作品として鑑賞する

阿川佐和子 聞く力
Pen : Pelikan - M800 (F)
Ink : Pelikan – Royal Blue

利き手が一言一句をもれなく聞くことは不可能です。耳と脳が相手の言葉を取捨選択し、しかもそれぞれの聞き手の取捨選択する部分が異なるから、人間の組み合わせによって違った会話の面白みに繋がるのです。でも、「これは聞き流してはいかんだろう」という大事なポイントは逃してはいけない。また、そういう大事なポイントは、得てして、ほんの小さな言葉の端に隠れているものです。さりげなくつけ加えた形容詞や、言葉の最後に挟み込んだ普通名詞や、ちょっとした小さな言葉。そういう謙虚な宝物を見過ごしてはいけません。

阿川佐和子 : 聞く力

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週刊文春に、阿川佐和子さんの 「この人に会いたい」 という連載コーナーがあり、著名人との対談が掲載されています。
この人に会いたい

このコーナー、阿川さんには申しわけありませんが、気になる方が登場したときだけ、たま~に目を通すだけのものでした。

ところが、ベストセラーとなった阿川さんの 「聞く力」 という本を読んで、「この人に会いたい」 を見る目が一変してしまったのです。
聞く力

「聞く力」 には、インタビューのお仕事なんて素人同然だった阿川さんが、試行錯誤を重ね、インタビュアーとして、自分なりのスタイルを築いていかれるまでの道のりが描かれています。

これまで私は、インタビュー記事というと、フツーに楽しくおしゃべりして、それが文字になっているものだと思っていたのです。しかし、それは浅はかでした。

よくよく考えてみればわかりますが、阿川さんの記事は商品です。商品としての価値を持つ以上、記事の中には阿川さんのプロとしての技術が凝縮しているのは自明のことです。

「技術が凝縮されている商品」 ということは、見方を変えると 「芸術作品」 ということになります。

「インタビュー記事が芸術作品?」 なんていうと、奇妙に聞こえますが、阿川さんのような名人の域に達すると、それは芸術作品だと私は思うのです。

インタビュー記事において、主役はあくまでもインタビューの受け手側です。インタビュアーはその主役を引き立てるための陰の存在にすぎません。だから、インタビュアーの技量が目立たない、自然なものであればあるほど、完成度が高いインタビュー (=すばらしい作品) になるといえます。

「インタビュアーに技術なんてあるの?」 と、読者に気づかせないことが、その技量の高さの証という、ある意味で矛盾した性格を持っているんですね。

「聞く力」 で、阿川さんは 「自分の記事は作品だ」 なんてことは述べておられませんが、ご本人はそれだけの意識をもって、お仕事に挑まれているはずです。でなければ、あれほど完成度の高い作品を生み出すことはできません。

冒頭の阿川さんの言葉、「大事なポイントは、得てして、ほんの小さな言葉の端に隠れているものです。さりげなくつけ加えた形容詞や、言葉の最後に挟み込んだ普通名詞や、ちょっとした小さな言葉。そういう謙虚な宝物を見過ごしてはいけません」 を念頭に置きながら、週刊文春、2016年5月5日、GW特大号に掲載された、「阿川佐和子のこの人に会いたい、第1113回、警視総監-高橋清孝」 の記事を振り返ってみたいと思います。

まず、出だしの部分です。

対談相手は警視総監ですから、当然、緊張しますよね。
高橋清孝

二人の距離感を縮めるため、対話がスタートしてひと段落ついたところで;

********************
阿川 「えーと総監(笑) 今日はよろしくお願いします」
********************

という言葉をかけます。

私の想像ですが、「えーと総監」 とお茶目に話しかけて笑いをとることを、阿川さんはインタビューの前から狙っていたはずです。警視総監を前にしてアドリブで出る言葉ではありません。周到な作戦をもって挑まれたことがわかります。

続いて、高橋さんの経歴、警察のお仕事、サミットの警備対策など、一般的な話題に入ります。そこで次の流れに進みます。

********************
高橋 「昨年の都内の犯罪件数は戦後最少なんです」

阿川 「戦後最少!?」
********************

「聞く力」 にも出てきますが、相手の話をオウム返しするワザは、インタビューにおいて効果的とのこと。実際、多くの読者にとっても「犯罪件数が戦後最少」 の部分は、もう少し詳しく聞きたいところでしょうから、ここでのオウム返しは絶妙でした。

この後、話題は最近急増しているサイバー犯罪に移ります。
サイバー犯罪

しかし、お仕事の話だけでは高橋さんのお人柄が見えてきません。阿川さんは、それを引き出すタイミングを狙っていたはずです。

次のやりとりがそのタイミングでした。

********************
高橋 「警察の世界では、過去の施策が数年経ってから芽が出ることの繰り返し。現在の警視庁だってかつての先輩が播いた種が実っていることが多いですよ」

阿川 「順繰りにバトンを受け取って、次に渡す際の地ならしというか。。。」

高橋 「そうです。今やらなければならないことをしながらですけどね。その上で自分の色を出すというか、個性や想いを職員には伝えたい

阿川 「じゃあ、高橋さんらしさというのは?」

高橋 「現場を大事にすることですかね。(略)むしろ私は一番下でみんなを支えているという意識です」
********************

阿川さんの 「順繰りにバトンを受け取って、次に渡す際の地ならしというか。。。」 と話されたところでは、「どうやって高橋さん個人の話題に持ち込もうか」 と頭を悩まされていたにちがいありません。

しかし、その直後、高橋さんから出た 「個性や想いを職員には伝えたい」 という、そのわずかな言葉を、すかさず捕らえて、阿川さんは 「来ター!」 と思ったことでしょう。「じゃあ、高橋さんらしさというのは?」 と返すところが、名人技。ここが本インタビューにおける大きな転換点になっています。

この後はどんどん高橋さんのプライベートの話へと打ち解けてゆきます。高橋さんの家で、一番偉いのは奥様、二番目が娘さん、三番目がルンちゃん (お掃除ロボットのルンバ)、四番目が警視総監、なんて笑える話も出てきます。
ルンバ

そうしたプライベートな話が続いても、最後は;

********************
高橋 「(入庁後) それから36年、職歴の半分を『何も起こらなくて当たり前』という警備の仕事をしてきました。国民の皆さんを守ることについてはすごくやりがいと達成感がある。これからもその職務をまっとうしていきたいと思っています」
********************

と、しっかり締める形でインタビューは終わっています。

全体を通して、とても自然な流れ、バランスで、この対談が構成されていることがわかります。ふつうに読んでいれば、阿川さんが楽しくおしゃべりしただけにしか見えません。阿川さんのすばらしい作品でした。

インタビューにおける阿川さんのコメントひとつひとつに、阿川さんのどんな作戦、思考、技術が隠れているのかを、鑑賞しながらじっくり読んでみる。そんな名人芸の楽しみ方を発見した思いです。

世の中、よーく注意して観ると、面白いことがいっぱいありますね。
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