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“独創的な視点” と “ふつうの目”

吉村順三
ウォーターマン - エキスパート (中字) : ペン
エルバン - モクセイソウグリーン : インク

設計実務はときとして、寝食を忘れてのめり込むほど面白い。それだけに、注意しておかないと「設計のための設計」「ディテールのためのディテール」に陥りやすい。そうならないためには、「血走った眼」から「ふつうの目」に、自分を戻さなくてはならないのだが、これはそう簡単なことではない。そこまでずっと引きずってきた試行錯誤の余熱があるからだろう。もちろん住宅の細部には、突き詰めて考え抜いたすえに生み出される発想や工夫が欠かせない。けれどそれと同じくらい、「ふつうであること」もまた大切なことなのだ。私が吉村先生を尊敬するのは、数々の独特な発想や工夫でさえ、むしろふつうの目を通して考え、語られていたからである。

増田 奏 : 住まいの解剖図鑑
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建築家、吉村順三(1908年9月7日 - 1997年4月11日)の名は、NHKのプロフェッショナルに登場した、住宅建築の第一人者、中村好文さんについて調べていたときに知りました。中村さんは吉村順三に師事していたのです (下記は吉村順三の 「軽井沢の山荘」 )。
軽井沢の山荘 1962年

あの番組で中村さんをご覧になった方の多くは、「こんな建築家に家を設計してもらいたいなあ」と思ったことでしょう。私もその一人でした。一言で言うならば、中村さんの作品には、クライアントとなった家族に対する「愛」が感じられるのです。限られた予算、敷地面積、法規制といった制約がある中で、密なコミュニケーションを通じてその家族が家作りにおいて本当に必要とするものは何かを導き出し、中村さん独自の工夫を設計に織り込んだ、そんな作品です。

こうした中村さんのスタイルの根底には、吉村順三の思想が流れていると私は思うのです。それは建築家のエゴをクライアントに押し付けず、どういう設計にしたらクライアントが暮らしやすいかを真摯に考え続ける、というスタイルです。

上述の 「住まいの解剖図鑑」 を書かれた増田 奏さんも、吉村順三に師事された方です。その増田さんが、吉村順三の持つ 「ふつうの目」 を尊敬している、という興味深い言葉を残されています。

建築は芸術の一分野だと考えられていますが、絵や彫刻といった芸術と決定的に異なる点は、それが実用を目的としているか否かという点でしょう。「実用を前提とした芸術」という括りで考えると、高度な水準の料理や工芸なども同ジャンルに属します。

このように「実用を前提とした芸術」の場合、「ふつうの目」を持たない、作者のエゴが露わになっている作品は世間に受け入れられません。そのような工芸品や料理は、すぐに淘汰されてしまいます。建築の場合は額が大きいだけに、通常は実現に至りません。世が異常だったバブルの頃に作られて、今も残っている無残な建築物は別にして。。。

そんなわけで、「実用を前提とした芸術」に携わる方々には、“独創的な視点”と“ふつうの目”をバランス良く持つという、複眼的思考が決定的に重要な要素となります。名建築家、名料理人、一流工芸家、いずれのケースを考えてもこれは当てはまります。

では、画家や彫刻家のように「実用を前提としない芸術」に携わる方々には“ふつうの目”は必要ないのでしょうか。

あるいは、画家や彫刻家と対極にいる、我々、一般的なビジネスマンには“独創的な視点”は必要ないのでしょうか。

私は、全ての職業人にとって(もちろん主婦業も含みます)、“独創的な視点”と“ふつうの目”の複眼的思考が必要なものであると考えています。仕事を通じて産み出されるものが、作品として世間から評価されるための重要な条件のひとつは、それが作者の複眼的思考を経ていることです。

画家や彫刻家が“ふつうの目”を忘れてしまったら、その作業で生み出されるモノは、“ガラクタ”であって“作品”ではありません。ピカソの「アビニヨンの娘たち」も、ウォーホールの「マリリン・モンロー」も、彼らが“ふつうの目”を持っていたから高く評価されているのです。

アビニヨンの娘たち

ウォーホル モンロー

一方、我々は、日常のビジネスにおいて、雑務の山に追われているわけですけれど、そんな中でも、“独創的な視点”を忘れてしまったら、それは“作業”であって、“仕事”ではありません。作業からは作品は生まれません。

一本の電話、一本のメール、そんな日常業務において、たとえ些細な内容であろうとも独創的な視点が織り込まれたら、それはもう作品です。そうした小さな作品の積み重ねの先に、チームで作り上げる大きな作品が生まれると思うのです。

ビジネスにおける最強のチームは、メンバーそれぞれが作品を作り続け、互いがプロとして作品を認めあう、そんな環境を持っているのではないでしょうか。これはアーティスト集団と言い換えられます。

現代ビジネスにおける勝負は、他社より高い付加価値を顧客に提供できるか否かが鍵を握っています。

付加価値とは差異です。差異の創造は、アートの目指すところに他なりません。ビジネスとアートの距離は年々狭まる一方なのです。

そんな時代だからこそ、チームをアーティスト集団へ変えてゆく能力が、リーダーに求められていると言えそうです。
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