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江夏の21球、の謎を追う (続編)

江夏の言葉

カスタム912  (フォルカン) : ペン
色彩雫 (コスモス) : インク

江夏豊さんと話す機会があった。「プロが言ってはいけない言葉があります。俺は努力した。時間がない。この二つです」 「練習の場を離れても、頭から野球を離してはいけない。二十四時間、苦にすることなく野球のことを考え続ける。それがプロ、でしょう?」 「ご飯を食べている時も、左手の茶碗を持つ手は、フォークボールの握り手、カーブの握り手を繰り返していましたよ。」 「全ての時間を自分の技術向上に向けるんです。それが必ず、いざという時に役立っている」 一度たりとも、練習で想定しなかったケースは、現実の場面にはなかった。いつマウンドに上がっても、練習で疑似体験したシーンだった、と江夏投手は言うのだ。

佐藤芳直 : 勝ち組になれる仕事術

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1979年の日本シリーズ、広島 VS 近鉄の最終戦の9回裏、広島の守護神、江夏が絶対絶命のピンチに追い込まれたとき、衣笠の一言で江夏が立ち直った話を以前お伝えしました。

今回は、この試合のクライマックス、江夏がこの回に投じた19球目についてお伝えします。

場面は4対3、広島リードのまま9回裏の近鉄の攻撃。一死満塁でカウント1-0、バッターは一番の石綿。江夏が投じた19球目、石綿のスクイズは失敗。三塁ランナーの藤瀬は封殺され流れは一気に広島に戻り、そのまま広島の優勝となります。
江夏がスクイズを外す1

江夏がスクイズを外す2

実は、石綿に打順が巡ってきてこの19球目に至るまで、広島と近鉄、両ベンチをめぐる思惑が交錯していたことが試合後、明らかになっています。

まず、広島側はベンチもバッテリーも、石綿の様子を見て、「これはスクイズで来る」 と確信していました。この警戒心が19球目の明暗を分けたと言えるでしょう。

一方、近鉄側の当初方針はヒッティングでした。西本監督はインタビューで次のように答えています。

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「石綿の第一球を見送る姿勢がですね、『三つとも振れ!』と言うて送り出したバッターにしては非常に消極的な見送り方であったな、という。。。二球目のときに、もうひとつストライクをとられると、これはもういよいよ何もできないな、という。そういうことを咄嗟に考えてですね。それならば一番点のとりやすいスクイズで行こうかという。。。考えが急に変わったんですね。」
++++++++++++++++++++

広島バッテリーは 「近鉄はスクイズを仕掛けてくるだろうけれど、一球目からは来ないだろうから、ストライクを入れて少しでも有利なカウントにしておこう」 という思いだったでしょう。このため、一球目はカウントをとる甘いカーブが来るのですが、緊張していた石綿はすんなり見逃してしまいます。

この見逃し方を見るかぎり、仮に19球目のスクイズ失敗が無かったとしても石綿は外野フライすら打てなかったと私は思います。

石綿の次のバッターは左バッターの小川だったし、右の代打の切り札の佐々木はもう使ってしまっていましたから、やはり江夏攻略は難しい。したがって、スクイズ失敗が無かったとしても、どのみち広島優勝という結果に変わりは無かったであろうというのが私の結論です。 (近鉄ファンであった私には、そう思い込んで自らを慰めるしかないともいえます)

さて、問題の19球目、江夏はこの時、どんな球を投げようとしていたのでしょうか。

関係者のインタビューをふり返ってみると、この当時、投げる球種も、投げるコースも、全て江夏が判断していました。キャッチャーの水沼が知りえる情報は江夏が投げる球種のみでした。石綿への2球目、江夏はカーブを選択します。

初球でストライクをとれていたので、この2球目、江夏はカーブで石綿の膝元に落ちる球を投げようとしたのではないかと私は思います。そこであれば、仮にスクイズとなってもミスする確率が高いし、振ってきても空振りかファールが取れるからです。

ところが江夏が実際に投げたのは、ウエストボールのようなカーブでした。

今も論争となっているのは、江夏は瞬時に判断して、スクイズを外す球に変更したのか、それともボールがたまたまスッポ抜けたのか、という点です。

バッターの石綿はNHKの「スポーツドキュメント 江夏の21球」で次のように述べています。

++++++++++++++++++++

石綿 : 外されたとは思ってませんけどね。まあ、今も思ってませんけどね。ウエストボールっていったら、まっすぐに全然届かないところに放ると思うんです。で、この場合、充分、バットに届くし。だから普通に投げたボールがスッポ抜けてあそこに行ったのかなと。
インタビュアー : 江夏さんは石渡さんの動きがチラッと目に入ったと。投げる直前に。
石綿 : それで外せるもんですかね?(苦笑い)

++++++++++++++++++++

石綿以外にも、何人もの野球解説者が 「打者の動きをみて咄嗟にウエストボールへ変更することは困難。まして球種がカーブであれば不可能」 と述べています。

一方、江夏は 「石綿の動きをみてウエストボールに変えた」 と述べていますので、「スッポ抜け説」の人々からみれば江夏は都合のよい嘘を言っていることになります。どちらが正しいのでしょうか。

この場面をスローで再生してみると次のような流れであることがわかります。

1) まず石綿がバントの構えに動きだします
2) 江夏は石綿の動きを目にします
3) 続いてキャッチャーの水沼が腰を上げます
4) ボールが江夏の指を離れます

ここで謎なのが水沼の動きです。水沼は江夏が球を放つ前に腰を上げています。キャッチャーにとって一番怖いのはボールを後ろにそらすことですから、ウエストボールがバッテリーのサインで決まっていないかぎり、ボールがピッチャーの指を離れる前にキャッチャーが腰を上げることは通常無いはずです。腰を上げた後、右バッターの膝元に落ちるカーブがきたらキャッチャーは捕れませんから。

そのように考えると、江夏と水沼の間で起こった内容は、次の3つのいずれかということになります。

A) 水沼はウエストボールのサインで江夏がOKしたと考えており、サイン通りに腰をあげた。しかし江夏はカーブだと思っており、バッテリー間でサインの認識ミスが起こっていた。
B) 水沼は江夏がカーブを投げると知っていたが、3塁ランナーの動きをみて条件反射で腰を上げてしまった。 (本来、キャッチャーはそのような動きをしてはいけないにもかかわらず)
C) 水沼は江夏がカーブを投げると知っていたが、3塁ランナーの動きをみて 「自分が腰を上げれば江夏はそこに投げてくれる」 と信じて腰を上げた。

私はおそらくB)だったのではないか、と考えます。もしかしたらA)だったかもしれません。しかし、C)ではなかったでしょう。なぜならあの瞬間にC)まで思考が及ぶとは考えられないからです。NHKの 「スポーツドキュメント 江夏の21球」 で水沼は次のように述べています。

+++++++++++++++++++
水沼 :普通のピッチャーならカーブのサインで、ああいうところに外せんですよ。暴投になるか地面に叩きつけるか。普通のカーブの握りでボール持ってたらね。
+++++++++++++++++++

江夏の指からボールが離れた後に水沼が腰を上げたのなら、上のコメントは理解できます。しかし、水沼は先に腰を上げているわけですから、スクイズだと思って条件反射で腰を上げてしまった、というのが本当のところでしょう。

さて、江夏は、この19球目、意識的にボールを外したのでしょうか。それともスッポ抜けただけなのでしょうか。私は江夏の言葉どおり、意識的に外したと確信しています。

リリーフで活躍していた、この頃の江夏の投げる球は、その投げるボールだけで比べるとしたらプロの中では 「並よりやや上」 程度のものでした。日本記録となる、1シーズン401奪三振の頃のボールとは雲泥の差があります。

それでも、江夏は守護神として超一流の存在でした。並より上程度のボールで、それを可能のしていたのは、最初にお伝えした江夏のプロ魂にあったと思うのです。

24時間、野球のことを考え続けていた江夏には、ほんのわずかな打者の表情や仕草から相手が何を狙っているのかを読み取れる、超人的な能力が備わっていたはずです。

そうは言うものの、「一度たりとも、練習で想定しなかったケースは、現実の場面にはなかった。いつマウンドに上がっても、練習で疑似体験したシーンだった」 という江夏も、さすがに最終回、カーブの握りでスクイズを外すことまでは疑似体験していなかったでしょう。

江夏はインタビューで次のように述べています。「常識では考えられないですよ。カーブでウエストするなんて。前代未聞でしょう。(中略)だから自分でこんなことできたんのが不思議や言うんですね」

江夏の19球目は、鍛錬を重ねてきた江夏に対して、野球の神様が恵んでくれたご褒美だったのではないでしょうか。

条件反射で腰を上げてしまった水沼のミス、そして神が江夏に恵んでくれた奇跡、この二つが重なって、江夏のスクイズ外しは成功し、プロ野球史上に残る伝説となったのだと私は思っています。
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